ホテルマンのシエスタ


富裕層はロレックスを買わない 暮らし方や考え方、一般庶民とはココが違う

                


富裕層はどうしてお金が貯まり、庶民はどうしてお金が貯まらないのか?
その違いを金融のプロフェッショナルが徹底検証する。


ZUU社長兼CEO 冨田和成
一橋大学卒業後、野村證券に入社。数々の営業記録を樹立し、最年少で本社の超富裕層向けプライベートバンク部門に異動。
2013年、「世界中の誰もが平等に学べ、平等に競争可能で、全力で、夢に挑戦できる世界を創る」をミッションとしてZUUを設立。
フィンテック企業として注目を集めている。



 富裕層が共有する投資マイン

 私は、かつて野村證券でプライベートバンキング部門を担当していた。
顧客は当然、企業経営者、医師、大地主といった富裕層ばかり。
日本だけでなく、華僑、ユダヤ人といった海外の大富豪とも会ってきた。
そして、数多くの富裕層と公私ともに深く付き合ううちに、私は彼らに共通する点を見出した。
それは「投資」という視点で、人生哲学から日々の暮らしまで、すべての物事を判断しているということだ。
代々の資産家も、一代で巨万の富を築いた実業家も同じである。

 一般庶民の人が投資と聞いて思い浮かべるのは、株や不動産、外貨預金、個人年金といった資産運用の手段だろう。
しかし、富裕層は違う。
「洋服や靴を買う」「外食や旅行に行く」といった、あらゆる消費行動も投資と捉え、対価に見合う、もしくはそれを上回るリターンが得られるかどうかで判断する。
億単位の商品でも価値を認めたら即決で買うが、逆に100円の商品でもムダと考えたらビタ一文出さない。

 たとえば、いま私の手元には「iPad」がある。
使わなければ、ただの板状の通信端末だが、私は経済情報の収集、顧客とのビジネスコミュニケーション、プレゼン用のツールとして仕事でフル活用し、多くの利潤を生み出してきた。
安くはないツールだが、元は取ったといえる。
私の話がしたいわけではないが、こうした考え方が身に付いているかどうかが、富裕層と一般庶民の人との差といえる。

 「富裕層は派手な高級ブランドで着飾っている」というイメージを持っている人が少なくないはず。
しかし、それは半分正しく、半分間違っている。

 確かに、富裕層の多くは高価なスーツや腕時計を身に着けているが、決して派手ではない。
腕時計であれば、一般庶民の人には「ロレックス」が人気だが、富裕層の間では「パテック・フィリップ」が根強い人気を持つ。
主張しないデザインで、わかる人にしかわからないが、高級車1台と同じくらいの値段の時計だ。
富裕層のスーツも、落ち着いた色調や柄で目立たないのだが、よく見ると最高級の生地を使った、仕立てのいいオーダーメードだったりする。
それはなぜか?

 一般庶民の人は少しでも目立ちたいので、派手なスーツや腕時計を選ぶ。
一方、富裕層は「相手にどう見られるか」という視点でファッションを選ぶ。
一番大切なのは信用力だ。
それゆえ、落ち着いたファッションで身を固め、「財力があるのに、それをひけらかさない堅実な人だ」と思ってもらえるように心がける。
つまり、富裕層にとってはファッションでさえ、自分の評価を高めるための一種の投資なのだ。


 ギャンブルに見るリスク管理の違い

 また、富裕層は「お金を払う」ことだけでなく、「労力や手間をかける」「時間を使う」といった日常のさまざまな行動も、投資という視点から決めている。
特に時間の使い方にはシビアで、自分のオフィスや勤務先のそばにマンションを持っている富裕層の方を、私は何人も知っている。
彼らにとって自宅の購入は、仕事場との間を往復する時間を“買う”ための投資なのだ。
単に「庭付きがいいから」と1日何時間もかけて、郊外のマイホームから通勤する一般庶民の人たちとは発想が違う。

 富裕層の特徴の一つに、負けても「大負けしない」ということがある。
痛手が小さいうちなら、敗者復活しやすい。
だから、投資する際はリスク管理に細心の注意を払う。
資産運用の世界には、株などの金融資産が10%値下がりしたら損切りする「10%ルール」がある。
10%程度の損失なら、ほかの投資である程度カバーできる確率が高いからだ。

 たとえば、富裕層の多くはギャンブルも大好きなのだが、賭ける金額をあらかじめ決めている。
たとえ負けていたとしても決して深追いせず、自分が決めたリミットの金額に達すると、引き上げてしまう。
統合型リゾート(IR)整備推進法成立でギャンブル依存症が問題になったように、ギャンブルには自制心を失わせる魔力がある。
富裕層はそれもわかっていて、自らに縛りをかけているのだ。
一方、一般庶民の人たちは負けが込むほど「次は必ず勝つ」と熱くなってしまい、大負けするケースが多いようだ。
リスクは金銭面にとどまらない。
実力や実績がある人でも、些細なトラブルが原因で人生を棒に振ってしまうケースがあり、富裕層はそうしたリスクを避けるための投資にも積極的だ。

 交通手段なら、一般庶民の人は主に電車やバスを使うが、富裕層はタクシーを愛用する。
乗車中に仕事ができるというメリットもあるが、不特定多数の人が乗る電車のように、痴漢に間違われたり、酔っ払いとの暴力沙汰に巻き込まれたり、はたまたスリに財布を盗られたりといった、トラブルに遭遇する心配がないからだ。

 教育に対する考え方も一線を画する。
一般庶民の人は「子どもが元気に育って、成人してくれれば御の字」と考えるかもしれないが、富裕層はそうはいかない。
子どもに親を凌ぐほどの「稼ぐ能力」がなければ、親が築き上げた資産を守ることは難しいからだ。

 現行税制では相続税の最高税率は55%。過去最高の遺産総額は石橋幹一郎・元ブリヂストン相談役の約1646億円で、遺族が納付した相続税額は約1135億円にも上る。
だから、子どもにできるだけよい教育を受けさせて、少しでも稼ぐ能力を高めるように惜しみない投資を行う。
すべての行動を投資と考えるというと、「勘定高い功利主義者」と思うかもしれない。
しかし、一般庶民の人たちも日々の生活のなかで、無意識のうちに投資とリターンを天秤にかけ、できるだけムダ遣いしないように「合理的な判断」をしているはずだ。
富裕層はそうした合理的な判断を強いマインドで、ブレずに幅広い分野で徹底して行っているにすぎない。
庶民の人でも投資マインドを意識的に持って、自らの行動を変えていけば、富裕層に一歩でも近づくことができるだろう。