ホテルマンのシエスタより


<週刊ポスト平成26年6月掲載記事より参考 多少アレンジしました>



すべての「野球少年だった人たち」へ捧ぐ  

30年で「野球常識」はここまで変わった!

        


知ってました?


 「ワインドアップ」は投手の化石、「両手で捕れ」は NG 、送りバントは愚策なんだって!


 松井は「引きつけるバッティング」で英雄に


イチローでも送りバントを失敗することがある


学生時代、野球をはじめスポーツをかじったことがある人なら、指導者から一度はこうドヤされた覚えがあるはずだ。
練習中に水を飲むな!」
これが間違った指導法だったことは説明不要だろう。

野球でいえば「肩を冷やすな!」もそう。
今やピッチング直後のアイシングは肘・肩ケアの必須項目だ。

30年も経てばスポーツの常識はガラリと変わる。
それは技術についても同様だ。

続々と和製メジャーリーガーが誕生し、高校球児たちのレベルも上がり続ける中、野球技術は科学理論や統計に基づき、日進月歩で進化している。
その結果、「昔の常識は今の非常識」ということが多々生じている。
野球に詳しいと自任する人ほど勘違いしやすい「野球技術の基本」の最前線をレポートする。
 


投手編

「ワインドアップ」は化石?

ラジオ中継の決まり文句。「さぁ、ピッチャー大きく振りかぶって〜投げた〜!」は、死語となりつつある。
ワインドアップで投げる投手は、もはや少数派である。
有名どころでいえば、巨人・内海哲也、阪神・能見篤史、中日・山本昌ぐらいだろうか。

メジャーで大活躍するダルビッシュ有、田中将大、岩隈久志らを筆頭に球界は「振りかぶらない投手」が席巻している。
阪神の若きエース・藤波晋太郎も今年からノーワインドアップに挑戦中だ。

広島のエースとして活躍した佐々岡真司氏がいう。
「私の現役時代、諸先輩方の多くはワインドアップで足を高く上げて豪快に投げていましたが、私はノーワインドアップにしていました。
一番の理由はバランスの良さです。
腕を大きく動かす動作で反動をつけるワインドアップは、一方でバランスをくずしやすく、コントロールを乱す可能性が高いのです」

本来、球速アップの利点だったはずなのに、振りかぶらないダルや田中が 150キロオーバーの速球を連発しているのだから、コントロールと安定感に勝るノーワインドが主流となるのも無理はない。

投手はテイクバックを「小さく」せよ

ワインドアップの衰退は、投手のフォームが総じてコンパクトになっていることも影響している。
近鉄・鈴木啓示やロッテ・村田兆治など往年の剛速球投手はテイクバックの際に腕を大きく振り回していたが、これも今や絶滅種。
最近のピッチャーの多くは、ボールを耳元につまみあげるような小さなテイクバックが主流だ。
これは30年前なら「投手なら大きなモーションで投げろ、野手投げをするな」とバカにされていた。

たとえば、元ソフトバンクの和田毅や、ロッテの成瀬善久などがいい例だ。
特に成瀬は「招き猫投法」とも呼ばれている。
「電話ボックスの中で投げてんのか!」と思うほど窮屈そうだ。
「これもコントロールとバランス重視の意味合いが大きいが、何よりバッターから見てタイミングが取りづらい。
小さなテイクバックだと自分の体でボールの出所を隠すことができる。
彼らの球が球速以上に早く見えるのはそのためです」(佐々岡氏)

変化球の基本は「カーブ」ではない

むかしは、変化球といえば「カーブ」だった。
投手が最初に覚えるのもこの球。
しかし今や学生野球では「カーブは最後に覚える球」だ。
「カーブは、手首をひねる角度が大きく、直球と同じ腕の振りで投げることが難しい。
最近では子供たちに教えるのは、スライダー、ツーシーム、チェンジアップなど、ストレートと同じ腕の振りで、握りだけ変えれば投げられるものだからです」(関東の名門高校野球部監督)

これは逆にいえば、いいカーブを投げられる投手が少なくなっているということ。
最近、ダルビッシュが積極的にスローカーブを取り入れているのは打者を欺く意味もあるだろう。
 

打者編
「ストレートには詰まれ!」で打率アップ

小さく手元で曲がる変化球が増えたためバッティングも大きく変わった。
30年前の野球理論と一番大きく違うのは、打撃に関してだといっていい。
かつては「速球は前で叩け」と言われていたが、最近では「できるだけ後ろ(捕手寄り)で打て」「引きつけて叩け」に変わった。
手元での変化に対応でき、長くボールを見られることで選球眼も良くなるからだ。

「昔は右打者なら左腕、左打者なら右腕と、バットをリードする腕の使い方が大切だといわれたものでしたが、ミートポイントが近づいたことでこれも様変わりした。
利き手による押し込み を学生野球でも重点的に指導しています」(前出・名門高校野球部監督)

わかりやすい例が松井秀喜だろう。メジャー移籍当初はツーシーム系に手こずり「ゴロキング」と揶揄されたが、ミートポイントの引きつけと利き手の強化で対応。
逆方向に強い打球を打てるようになった。

「たたきつけるバッティング」は時代遅れ

古い野球では「フライや三振はもってのほか」「転がせば何が起こるかわからない」という価値観から、「とにかく上から叩きつけろ」という指導法がはびこっていた。
今もこうした指導者は存在するが、最近では「レベルスイングこそ重要だ」という理論が浸透している。

オリックスのコーチ時代にイチローと振り子打法を編み出すなど、5球団のコーチを歴任した河村健一郎氏がいう。
「レベルスイングなら、ボールの軌道とスイングの軌道が重なる部分が多いため、ボールを でとらえられる。
しかしダウンスイングでは軌道が重なる部分が少なく でしかとらえられない。
当然打率は上がらないし、バットでボールを切るようになるのでかえってポップフライが上がりやすい。

投手側の肩が開いて手打ちになりやすい弊害もある。
上から叩け、は確実に間違った指導法です。
メジャーで活躍するイチロー、青木宣親(ロイヤルズ)は、レベルスイングを実践していますし、ベイスターズの梶谷隆幸が急に本塁打を打つようになったのも、2年前にグリップの位置を下げ、レベルな軌道にしたからだと聞いています」
この理論は、プロだけでなく八戸学院光星、常葉菊川などの甲子園常連校でも実践されている。

「送りバントは愚策」の可能性大

かつては絶対の作戦だった送りバントが、はたして有効かどうかも疑わしい。
ヤクルト、巨人、阪神でプレーしたスラッガー、広澤克実氏がいう。
「統計で見ても、送りバントは得点の可能性を上げないということが証明されています。

木のバットを使っていて貧打だった時代の高校野球の戦法で、金属バット使用で長距離打者が増えた現在の高校野球ではそれほど有効とは思えません。
プロの場合は、得点のためというより併殺を避ける手段として使われ、消極的な作戦という印象です」
 

守備編
「絶対に正面で捕れ」は間違い

守備では「足を動かしてとにかくボールの正面で捕れ」といわれたものだが、現代の野球では少し事情が異なる。
名手として知られる元ヤクルト・宮本慎也は、ボールが正面から飛んできたら、体をずらしてボールの右側に入るのが正解だと色々なところで話している。
「正面伝説」の否定である。

正面だと打球との距離感が計れないが、打球を右からはすに見て、捕る瞬間に正面に入る。
そうすれば距離感もつかみやすいうえ、ステップもしやすく送球動作に入りやすいという。
ゴロを逆シングルで捕ることも、昔は「横着だ」といわれたが、今では必要な技術として高校などでも教えられる。

元巨人の名手・篠塚和典氏がいう。
「基本は正面で捕るのが望ましいが、ランナーの走力が上がってきたこともあって、投げるまでのスピードが要求されているのも事実。
ショートが三遊間のゴロを捕る時などは逆シングルも有効と考える指導者が多い」
また、かつては「カッコつけるな」と怒られたグラプトスやジャンピングスロー、ランニングスローも、高校球児の必須科目。
野球のスピード化により、そうしなければ間に合わないからだ。

「両手で大事に」もNG

これもいまだに間違った指導がそこかしこで行われている。
両手を一緒に出してボールを捕ろうとすると、体が真正面を向いてしまい、上体の動きが固まってしまう。
イレギュラーなどとっさの動きにも反応しづらい。
片手で捕りに行ったほうがミスが少ない。
「特にフライを捕る際は片手がいい。
両手で捕球しにいくと手が伸びないし、動きが制限される。
ただし素早く投球動作に移るため、捕球後はすぐにもう一方の手を添えにいくべきです」(関西の名門高コーチ)

「ガッチリつかめ」もいわれない

これは特に内野手のゴロの捕球の場合。
「グラブのポケットの深いところでつかんでしまうと、投げる手への握り替えが難しく、かえってファンブルしてしまう。
そのため、 当て捕り をする。
グラブのポケットの土手付近にボールを当ててそのまま投げ手に持ち替えるやり方です。
この方が送球動作がスムーズに行なえる」(前出・名門高コーチ)

「上から投げろ」はウソ?

内野手が不安定な体勢からサイドスロー、アンダースローで送球すると、これも昔は「暴投が出る」と注意されたものだったが、これも過去の話。
今は高校生でも内野手はどんな体勢からでも投げられるように練習している。

高校野球を取材するスポーツライターがいう。
「某県でベスト4に入った公立高校では、左打者が一塁線にしたバントを捕手が処理する場合は 下から投げる と決められていました。
送球がバッターランナーに当たるのを避けるためです。
今の高校野球は、それくらい緻密に戦術を考えています」
 

道具編
    
「重いバットは打球が飛ぶ」は迷信

長距離打者は重いバットを使うべきと当たり前のように言われてきたが、前出の広澤氏は「それは迷信」と断じる。
「遠くに飛ばすには、バットのヘッドスピード、打球の打ち出し角度と回転数が重要です。
バットの重さは遠心力に関係しますが、重いバットを使ってヘッドスピードが落ちるのであれば、それは全く意味がない。
まずは自分に合ったバットを使うことが重要です」

かつては1キロを超える重いバットを持つプロ選手が多かったが、最近では900グラム前後が主流という。
草野球のバットが750グラムほどだから、相当軽いといっていい。

「グラブから人差し指を出す」は有効だった

グラブから人差し指を出していると、指導者から「プロのマネしてカッコつけるな」「捕球時の痛みをいやがるな」と怒られたもの。
しかし、現在そんなことで怒られる高校球児はいない。
「このグラブのはめ方は理にかなっている。
グラブの革を人差し指と他の指で挟みこむことになるため、手とグラブの一体感が増し、より深くグラブをはめられるのです。
最近のグラブは、指を出す前提でデザインされたものも多い」(スポーツメーカー社員)

今の高校球児はバッティンググローブに日光対策のサングラスも着用。
我々の時代とは全く違う合理的な指導を受けているのだ。

 

かつて「野球小僧」だった人ほどハッとさせられる内容があったのでは。
この 最新常識 を踏まえておくと、日頃のテレビ観戦も今までと違った観点で楽しめるのでは。


It was a baseball boy in old days (^_^)v

「テキサスヒットと隠し玉の星」と言われた頃。 (気まぐれDIARY 2013.12.9 を参照のこと)