ホテルマンのシエスタ


「サバ缶でやせられる」の真相

日経ウーマンオンライン  2013年9月24日(火) 配信のものを転記しました。


サバ缶でやせられるらしい――。

 テレビのダイエット特集の影響で巷にこんな情報が飛び交い、一時、スーパーで品薄、売り切れが続出した。
だが、実はダイエット効果が期待できるのは青魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)という成分で、なにもサバの水煮缶だけに限ったことではない。

 そもそも、EPAはなぜダイエットに効果的なのか? EPAといえば魚、ということで、EPAのさまざまな健康パワーについて、日本水産のファインケミカル事業部でEPA研究に携わるジュネジャプラティークさんに聞いてみた。

EPAが運動によるダイエット効果を高める

 EPA(エイコサペンタエン酸)とは、健康維持に欠かせない「必須脂肪酸」の一つ。
体内ではほとんど作ることができないため、食事などから必要量を補う必要がある。
主に青魚に多く含まれる成分で、さまざまな健康効果がある。なかでも血液中の中性脂肪を減らすほか、血液中の総コレステロールを抑え、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増加させて動脈硬化を防ぐはたらきが知られている。
EPAは高脂血症や動脈硬化の治療薬としても応用され、さまざまなタイプの健康食品も開発されている。

 EPAは血液中の中性脂肪を減らすだけでなく、運動と組み合わせると体脂肪減少を促進するという実験結果もある。
過体重の男女30人に週3回、45分間のウォーキングを12週間続けてもらったところ、「EPA+ウォーキング」を実践した人は、「プラセボ(偽薬)+ウォーキング」に比べて体脂肪の減少幅が大きく、筋肉などの増加幅も大きかった。

糖の代謝にかかわるホルモンGLP-1の分泌を促進

 さらに最近では、EPAをとることで小腸から「GLP-1」というホルモンの分泌が促進されるということで注目を集めている。

 GLP-1は、もともと私たちの体内にある物質だが、肥満の人には少ないといわれている。
食べ物を食べることによって血液中のブドウ糖(血糖)の量が増えると膵臓からインスリンが分泌されて代謝されるが、GLP-1にこのインスリン分泌を改善するはたらきがあることがわかり、この仕組みを応用した糖尿病(糖代謝異常)の治療薬が開発された。
関連する研究から、GLP-1には、余分な糖が腸で緩やかに吸収されるのを助け、食後の血糖値の急上昇を抑える作用や、胃の内容物の排出を遅らせることで満腹感を高め、食欲を抑える作用などがあることもわかっている。

 腸は食べ物を消化するだけでなく脳と密接につながっており、腸から分泌される満腹感に関するさまざまなホルモン(GLP-1など)と脳からの指令が、代謝に強く関連していると推測されている。

 「少量で満腹になる人と、たくさん食べても満腹感を抱かない人がいるのは、こうした腸から出るホルモンのバランスにもよります」(ジュネジャ氏)

 食事からEPAや食物繊維をとることで小腸の細胞が刺激され、GLP-1の分泌が促進される。
単独でもよいが、EPAと食物繊維を組み合わせれば、より少ない食事量でも満腹感を得られると考えられる。
食生活を見直し、EPAを含む魚と、水溶性食物繊維を含む野菜・豆とをバランスよく組み合わせるのがダイエットに効果的というセオリーが、科学的に裏付けられてきたといえそうだ。

 「EPAは、ホルモン分泌によって徐々に体質を改善するため、即効的にやせるというよりは、安全にしかも長期的にリバウンドしにくい体にしていく」(ジュネジャ氏)という点にも注目したい。


EPAはお肌にもいい。生理痛の軽減、持久力アップにも

 EPAはダイエットに役立つ以外にもさまざまな健康効果がある。
血液をサラサラにする効果により血流が改善されると、肌の新陳代謝が活発になる。
また、EPAには、紫外線によるDNAの損傷や炎症を抑えることにより、肌へのダメージを軽減する働きもある。
プロスタグランジンE2という痛み物質を抑える作用もあり、生理痛の軽減効果も期待できる。

 「EPAには、赤血球の膜をやわらかくして、毛細血管にもスムーズに入り込んでいきやすくすることで、酸素を体のすみずみにまで運ぶ能力を高めるはたらきもあり、持久力の向上につながることから、アスリートにも注目されています」(ジュネジャ氏)

 消費者庁が2012年4月に発表した食品の機能性評価に関する調査では、ラクトフェリン、BCAA、コエンザイムQ10、ヒアルロン酸など11の成分の中で、EPAを含むn-3系脂肪酸だけがA評価を獲得した(調査の詳細はこちら)。
つまり、多数の研究を検証した結果、行政からも十分な科学的根拠があると認められた。
体質を根本から改善するからこそ、いろいろな面に効果が現れるのかもしれない。

1日1000mgが目標。魚を食事に取り入れよう

 では、EPAは1日にどれだけの量をとればいいのか。
また、サバのほかにどんな魚に多く含まれるのか。

 厚生労働省の食事摂取基準では、EPAとDHAを併せて1日に1000mg(1g)以上とることが推奨されている。
サバの水煮だけでなく、イワシ、マグロなどにも多く含まれているので、これらの魚を食事にバランスよく取り入れたい。

 ただし、EPAの含有量は時期や魚種などによっても変化するので、基本的には、旬の「脂がのった」魚を鮮度の良い状態で食べるのがおすすめ。
調理によって脂肪分が溶け出してしまうこともあるので、できるだけ煮汁も残さずにとれるよう調理の仕方も工夫したい。
刺身や焼き魚、煮魚などいろいろな調理法で食べるのがよいだろう。
缶詰は保存も利くので手軽に利用しやすいが、サバの水煮がなくても、サンマやイワシの蒲焼き、サバの味噌煮や醤油煮の缶詰でもよい。

 青魚が苦手な人はマグロやブリ、貝類でもEPAがとれるし、「そんなに魚ばかり食べられない」という人は加工品やサプリメントを利用するのも手だ。
日常生活のシーンに合わせて工夫し、さまざまな形でEPAを効率的に摂取しよう。