ホテルマンのシエスタ
交通事故死者の4倍。なぜ高齢者の「入浴事故死」が多いのか?
露天風呂に身を沈めながら、徳利の首をつまんで酒を一杯。
呑兵衛なら一度は憧れるシチュエーションですが、実はこれが危険な行為だという。
ただでさえ飲酒をしての入浴はリスクが高く、温泉に入りながらの飲酒などもってのほか。
さらに、高齢者の入浴事故死が、交通事故死の4倍も発生しているという。
露天風呂でお銚子を傾けて一献、は危険。
各地の温泉宿で、露天風呂にお銚子を載せた桶を浮かべて日本酒が飲める、というサービスを行っているところがある。
これは、酒飲みとしてはまさしくあこがれのひとつであって、雪のちらつく冬などはまったく最高の風情だ。
これまでこうしたサービスによる入浴事故の報告は聞いたことがないが、正直、推奨できないのが事実である。
そもそも飲酒しての入浴は相当にリスクが高い。
というか、入浴法を間違えると、お風呂に入ることそのものにも、かなりのリスクがある。
年間の交通事故死者は5000人以下になってきているが、入浴とそれにまつわる事故死者は、年間約2万人もいるとされる。
こうした入浴事故の多くは、「高齢者」で「冬」に、「熱い風呂」で起きている。
直接の死亡原因は「脳卒中」「脳梗塞」「心筋梗塞」である。
入浴によって汗をかくことで血液粘度が増すと、血管が詰まったり、破れたりすることにつながる。
だから、入浴前後の水分補給が重要なのである。
高齢者に事故が多いのは、加齢によって血管が詰まりやすく、破れやすくなっているからであろう。
加えて冬は気温が低く、血管が収縮しているうえ、熱い湯に急に入ると、血圧が急上昇して、前述のような事故につながりやすい。
こうした血圧の急上昇のほか、風呂を上がるときにいきなり立つと血圧は急降下する。
血圧の急激な変化は、立ちくらみなどにもつながって、転倒事故にも結びつくことになる。
風呂上がりは、全身が水圧から開放されることで、血流が全身に回るようになって、その代わりに脳の血流が減る。
するとこれは脳貧血につながって、やはり転倒事故を引き起こすことも少なくない。
平時でもこれだけのリスクがあるわけだから、飲酒をしたらいっそうリスクが増えるのは言うまでもない。
宿の夕食時にたっぷりと酒を飲んでしまったら、その後の入浴は避けることも重要だ。
ちなみに「高齢者入浴アドバイザー協会」では、
「深酒したときは入浴禁止、晩酌程度であれば、1〜2時間後に入浴すること」としている。
アルコールは血管拡張作用があり、入浴するとさらに血管が拡張して、急激な血圧降下、脳貧血、不整脈を起こしやすい、とその理由が書かれている。