ホテルマンのシエスタ
医療ルネサンス
北欧で聞いた終末期
不自然な延命治療せず
高齢社会をよくする女性の会」の視察メンバーでノンフィクション作家、沖藤典子さん(74)のテーマは「在宅で死ねるか」。
視察は、日本との違いを見る格好の機会だった。
スウェーデン・ストックホルムの「ベーデルクバルネン高齢者特別住宅」。
24時間介護が必要な人が約90人、何らかのサービスが必要な人60人が暮らす。
部屋は、それぞれが持ち込んだ家具や絵、カラフルなカーテンなどで飾られ、掃除が行き届いていた。
慢性病を持つ人向けのグループホームに住む女性(94)は、「ここは暮らしやすい」とにこやかに話した。
ただ、看護師のマルティア・アクセルソンさんの説明から見えたのは、「原則として延命治療はしない」という、日本人の感覚からすれば厳しい姿だった。
この住宅には、看護師が常駐し、医師は平日だけ勤務。
救急治療が必要な場合は病院に送るが、終末期ケアは通常、施設内で行う。
「痛みや呼吸不全、うつへの対策など、安らかに死を迎えるためのケアを提供している」とアクセルソンさん。
食べ物が飲み込めなくなったら、水を口に含ませる程度で、おなかに穴を開けてチューブで栄養を入れる「胃ろう」や点滴は行わない。
一日22時間以上の「寝たきり」状態になってから亡くなるまで、せいぜい一か月という。」
「家族にとって、治療をせずに亡くなるのを見ているのはつらい。
10年ぐらい前は『家族のための点滴』をすることもあった。
だが今は『終末期の点滴は心臓に負担をかけて苦しめるだけ』との知識が一般にも普及し、行わなくなった」
フィンランド・ヘルシンキで訪れた施設も同様だった。
四つの老人ホーム(定員605人)を運営する「ヘルシンキシニア財団」のタイナ・マエンシブ財団長は、「チューブによる栄養はまず行わない。
できるだけ食べさせ、食べられなくなったら終末期ということ」と話す。
医師は週に2回訪問。終末期に病院にかかることはなく、看護師を中心にみとりを行う。
沖藤さんは「私たちが考える『終末期治療』はほとんど行われていない。
高齢者に不自然な医療は行わないという社会的な合意があるのでしょう」と語る。
代表の樋口恵子さんは、こう締めくくる。
「日本は、命を粗末にした戦時中の反動で『命は少しでも長いほうがいい』となった。
しかし今それに対する疑問が出始めている。
日本なりの終末期文化のための提言をしていきたい」(針原陽子)
<読売新聞> 医療ルネサンスより抜粋