ホテルマンのシエスタより
原油価格・高騰とその原因
ジェットコースター並の急騰、急落を見せる原油価格。なぜ? そして今後は?
原油価格は、ほんの5年前には、1バレル20ドルだったのが、1バレル147ドルまで急騰し、今度は121ドルまで26ドルも下落。
まだ高いけどこれで収まっていくのか? この2〜3年のうちには、1バレル300ドルになると予測しているヘッジファンドも・・・。
今回の下落は、アメリカ議会で原油高騰の原因となった投機筋を規制する法案が協議されていることなどが要因です。
ただ、あくまで投機なので今後また上がる可能性は捨て切れません。
これまでの価格高騰は、原油が投機の対象になったことが原因だとのことですが、そのカラクリを教えて頂けますか?
まず、サブプライムローンの破綻がありました。
その破綻で冷え込んだ景気を回復させる為、日本の日銀にあたるアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和をした。
日本が1998年金融破綻後にとった政策とまったく同じです。
ゼロ金利政策ですね。
金融緩和で政策金利を引き上げればドル安につながる。
本来は金融政策で投資家が株式市場に向かうはずだったのですが、サブプライムローンの余波で史上が混乱していた為、確実な値上がりが期待される原油に資金が流入した。
その舞台となったのが、WIT(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)と呼ばれる石油先物です。
さらに中東のオイルマネーを含む海外の資金もドル離れをおこし、WITをめざした。
これが原油価格の高騰の原因です。
WIT原油というのは?
ニューヨークのマーカンタイル取引所(NYMEX)で取り引きされる、テキサス州を中心に産出される原油なのですが、このWTI原油の価格が世界の原油市場の指標となっているのです。
指標というと?
このNYMEXのWTI原油を含め、ヨーロッパ市場のブレンド原油、中東産原油が世界3大原油と呼ばれているのですが、この三つの原油は連動していて、WTIを見ながら価格が決まっていきます。WTI原油自体は、世界で産出される原油量の1〜2%に過ぎないのですが・・・。
世界の1〜2%の原油がなぜそんな影響力をもつのでしょう?
WTIの産油量がかっては豊富で、アメリカを代表する原油でもあったこと。そして、NYMEXに上場していることから、原油価格の指標となったわけです。
実はこのWTI原油の先物市場規模というのは、以外に小さくて、現在19兆円ほどです。
東証1部の時価総額が400兆円ですから確かに大きくはないですね。
そんな小さな市場に、1兆〜2兆円流入するだけで価格は急騰するわけですね。
実際、WTI原油の規模は、1年前には、14兆〜15兆円だったがこの1年間に急激に上がっている。
一時期、原油価格は、1バレル140ドル台まで上がりましたが、これはやはり異常な価格ですか?
間違いなく異常ですね。今回の原油価格高騰で、アメリカや日本など先進国の経済成長率は、軒並み0%台まで落ちるおいう試算も出ています。
2007年の経済成長率が2.5%ぐらいでしたから、これは、世界不況が起きても不思議ではない数字なんです。
ただ、アメリカ議会で、原油への投機マネーを規制することが協議されているとのことですし、今後は価格が落ちていくとは考えられませんか?
そう期待したいところですが、まず規制自体非常に難しいと思います。
アメリカは、市場経済主義を信奉する国ですので、なかなかこういう規制ができない。
また先ほど、アメリカ企業の決算が思ったよりは悪くなかったと言いましたが、決していいいわけではありません。
ブッシュ大統領自信が、アメリカの金融市場の状況に言及して、まだ二日酔いの状態だ。と発言しているくらいです。
相変わらずドル安基調は続いていますし、サブプライムローンショックから脱したわけでもありません。
今回の下落は一時的なものだと・・・?
例えば、為替介入のように、アメリカ政府が備蓄原油を放出して原油先物市場に介入するくらいの荒療治をしない限り、原油価格の今後の高騰も回避できないと思います。
今のままでの状態でどこまで上がるとお考えですか?
年内に150ドル。状況次第では、来年。200ドルという数字も可能性として十分あるでしょう。
200ドルですか?
今回の原油価格高騰では、投機筋によるマネーゲームという論評を多く見ました。
これまで説明してきたように、それが大きな原因であることは間違いないのですが、この説明だけでは、「木を見て森を見ず」になりかねません。
やはり、需要と供給のバランスなんですね。原油が安定して、上がると見たからこそ投機マネーも動いたわけです。
1970年代のオイルショックでは、需要に対しての供給のバランスがとれていなかった。
OPEC(石油輸出国機構)としては、原油価格があまりにも高騰して世界が代替えエネルギーの開発などで石油離れを恐れた。
そこで、OPECに加入しているサウジアラビアが増産を決定し、石油価格の安定につながりました。
原油市場でのOPECの役割というのは、この価格調整なのですか?
今回はそれがない。
確かに、3年ほど前から、サウジアラビアが増産を表明しておきながら、いまだに増産していないですね。
それはなぜか・・・? まず供給側から説明しましょう。
ピーク・オイルという言葉はご存じですか?
確か、原油の生産量がある時点でピークを迎えて、その後減少に転じていくことですよね?つまり、埋蔵量ですね。
ピーク・オイルには諸説があって、既に2005年にピークを迎えたという説や、まだまだ何十年も持つという説など様々です。
正直どれが正しいかは私にもわかりませんが、確かなことは、石油が限られた資源だという事です。
ピーク・オイル説が、サウジアラビアに増産をためらわせていると?
十分考えられると思います。
そして、需要面では、中国やインドなど新興国の経済成長があります。
「8億人の先進国から30億人の新興国の時代」といわれるのですが、これも原油価格高騰の大きな要因です。
単純に車の所有台数だけ見ても、人口1000人当たりの所有台数は、アメリカが現在約800台、日本やドイツ、イギリスなど他の先進国が600台前後。
しかし、中国はまだ30台にも足りていません。
人口1000人当たりの自動車保有台数(2006年末) | |
アメリカ | 815台 |
イタリア | 682台 |
オーストラリア | 674台 |
ドイツ | 604台 |
カナダ | 600台 |
フランス | 598台 |
日本 | 594台 |
イギリス | 580台 |
中国 | 28台 |
インド | 19台 |
日本自動車工業界による |
これが、現在の先進国並になれば、ピーク・オイルなどと言っていられない。
まさに地球崩壊です。
いずれにしろ、こうした需要と供給の潜在的な要因があるからこそ、投機マネーも原油市場を目指したわけです。
ちなみに今回、投機マネーの流入を除いて、純粋に需要と供給のバランスでいくと、原油価格は1バレル何ドルくらいになっているとお考えですか?
私たちの試算では、70ドル。しかもこれはこれからどんどん上がっていく可能性がある。
原油価格125ドルの場合 ※1バレル=159L | |
55ドル | 投機マネーによる上乗せ分 |
70ドル | 純粋に需要と供給のバランスの原油価格 |
今回の急騰は、マネーゲームも絡んで確かに異常でした。
しかし、需要と供給のバランスから見れば、この先原油が上がり続けるのは避けられないんです。
仮に原油が200ドルになると私たちの生活はどうなりますか?また、ガソリンはいくらになるんですか?
ガソリンは、1L220円を超えるでしょう。
え!1L220円・・・。
問題はガソリンだけではありません。既に先日、漁業組合が一斉休業を行いました。ただ、これはまだ燃料代レベルの問題です。
もちろん、島国である日本にとって輸送も含め、燃料代の高騰は死活問題だのですが、こてからは、石油関連製品を含めた値上げが考えられます。
石油関連製品というと?
プラスチック、合成ゴム、化学繊維、合成着色料、化学薬品・・・これが全て石油関連製品です。
石油関連製品を含めると、石油が世界のGTPに締める割合は、4〜5%とも言われています。
それは、大きい割合なのですか?
鉄鋼せすら、1%にすぎませんね。それだけ私たちの生活は石油に依存しているのですね。
特に原油高騰お影響を受けやすい企業はありますか?
分野で見ると、原油高の影響をまともに受ける運輸、原油価格を転嫁しにくい中小企業の比率が高い金属製品分野。
個人消費の伸び悩みの影響を受けるスーパーや百貨店などの卸小売りサービス業が三大分野だと考えられます。
シミュレーションでは1バレル200ドルで法人企業経常利益は、前年比で13.3%のマイナスです。
その数字の意味するところは?
山一証券や北海道拓殖銀行が破綻した翌年の、1998年度ITバブル崩壊翌年の、2001年度の法人企業経常利益の前年比がそれぞれ19.8%のマイナスです。
1.3%というのは、原油関連のみの数字で、例えば穀物価格などは反映されたいません。
それを考えれば、1998年、2001年に匹敵もしくはそれ以上の景気後退が考えられるわけです。
200ドル時代を回避する手段というのはあるのですか?
日本は石油の99.9%を輸入に頼っていて、備蓄は半年分しかありません。いきおい原油高騰の影響を受けやすい。
いずれにしろ、1バレル20ドルのような時代には戻りようがない。
なるべく早くエネルギー政策を充実させて、石油に代わる新しいエネルギー源を成長させる以外打つ手はないでしょうね。
2008年8月4日現在、原油価格1バレル121.41ドル 約3ヶ月ぶりの低水準
石油元売各社が8月から卸売価格を値上げ
レギュラーガソリン180円台後半に
東京電力などが原油高を受け
来年1月から電気代値上げの見通し
※このページ作成には、第一生命経済研究所主席エコノミスト 永濱 利廣さんの記事を参考とさせていただきました。
2008年8月22日 ホテルマンのシエスタ
TOPページへ