ホテルマンのシエスタ



「ウエットティッシュ」「ファブリーズ」に除菌効果はあるか?


「週刊新潮」2014年5月22日号「重度『潔癖症』の人々におくる 間違いだらけの『雑菌知識』」特集より





サッとひと拭き、シュッとひと吹き、これだけできれいになるという謳い文句が受けている。
いまや、ウエットティッシュとファブリーズは潔癖症の人々のみならず1人1個、一家に1本の必需品になりつつある。だが、果たして、どれほど除菌効果があるのか。

ウエットティッシュは数多あるが、日本衛生材料工業連合会(日衛連)が定めた試験に合格しなければ、“除菌”と名乗ることはできない。その試験はこんな内容だ。

適当な汚れと一緒に大腸菌や黄色ブドウ球菌をステンレス板に塗って、それを5分間乾かした後、対象となるウエットティッシュで5往復拭き取る。
結果、拭き取る前の状態と比べて細菌が99%減少していれば合格。
これで晴れて除菌を名乗ることができるのだという。

コンビニの店頭には多くの除菌ウエットティッシュが陳列されているが、なかには“手の汚れ・バイ菌をしっかり拭き取る”と喧伝する物も少なくない。

だが、北里大学の宮田幹夫名誉教授はその効用にこう疑義を呈する。

「ウエットティッシュで体を拭いたら、肌の表面は除菌効果があるでしょう。
ただし、雑菌は皮膚の奥、毛根を覆っている毛嚢(もうのう)の中にもどんどん溜まっていく。
しかも、皮膚全体は小じわだらけです。
ウエットティッシュで拭いても、その溝に入り込んだ雑菌を99%殺せるとは到底思えません」

除菌のお墨付きを与えている日衛連でさえも、「ウエットティッシュの除菌効果はあくまでテーブルやドアノブなどが対象で、手や指を含めた身体は含まれていません」

つまり、手の汚れは落ちても、細菌を99%除菌することはできないのだ。

■急増する過敏症

一方、「ファブリーズで洗おう」のCMでお馴染みのファブリーズは1999年の発売以降、15年間で3億本以上を売り上げたメガビット商品だ。
消費者に受けている理由の1つに99%以上のウイルス除去効果があるという。

販売元のP&Gに除去可能なウイルスを聞くと、「試験に使用したインフルエンザウイルスが100分の1以下になったことを意味しています」(広報部)

改めて、商品パッケージを見てみると、そこには“99・9%除菌”と銘打っている。
この0・9%の違いは一体何か。
再び問い合わせてみると、「家庭にある布に菌を付着させて、(ウイルス除去と)同様の実験をして確認しています」(同)

ファブリーズには、塩化ベンザルコニウムという物質が含まれている。先の宮田名誉教授は99・9%除菌に懐疑的だ。

「そもそも細菌は、簡単に消せるようなものではありません。
かつて、手洗いの効果を確かめるための実験が行なわれました。
その実験では、塩化ベンザルコニウムを合成して殺菌作用を強めた石鹸を使い、3分間の手洗いを2回続けて行なう。
その後、プレートに手をつけてから離し、一定時間放置すると手形にびっしり細菌が発生していた。
殺菌性の強い石鹸を使っても、細菌を完全に消し去ることなどできない。
人間の体は細菌と共存して、初めて健康なのです」

ここ数年、結膜炎や皮膚炎、喘息、不整脈などを引き起こす化学物質過敏症患者が急増し、その数は100万人を超えるとの統計もある。

「私は1日8人限定で、化学物質過敏症専門の外来を行なっていますが、その半数がファブリーズに反応している。
スプレーから霧状で空中に散布されるので、それを吸い込んで肺に届くと、化学物質がそのまま毛細血管を通って血液に溶け込んだり、鼻の粘膜に付着すると脳に直結するので非常に危険なのです」(同)

きれい好きという国民性に付け込まれ、甘美な宣伝文句に踊らされているだけなのかもしれない。