ホテルマンのシエスタ
ボケない道
100歳まで現役バリバリ
ボケの前兆は40代後半から始まっている
認知症の中でも物忘れを主要症状とするアルツハイマー病は、70歳前後で症状が始まるが、実は脳の病変自体はその20年も前から進行している。
しかし、認知機能の低下が何歳から始まるかに関しては、知られていなかった。
フランス国立衛生医学研究所の疫学・公衆衛生研究センターのアルシャナ・シンマヌー博士らは「認知機能の低下が始まる時期を特定することは、医療介入をどの年齢で開始するかを決定する上で極めて重要だ」と考えた。
そして、45歳〜70歳の公務員で、85年にホワイトホールUコホート研究(1985年より英国人公務員を対象に実施された臨床研究)に登録した男性5198例と女性2192例を、97年から10年間観察する研究をロンドン大学との共同研究で実施した。
観察期間中に認知機能を3回測定して認知機能の低下を評価した。
評価した5項目についての認知機能。
@推論能力
A記憶力
B音声の流暢性(Sから始まる単語を可能な限り書き出す能力)
C語義の流暢性(動物の名前を可能な限り多く書き出す能力)
Dボキャブラリー
その結果、5歳刻みの各年齢層でボキャブラリーを除いたすべての認知機能スコアが観察期間の10年間に低下していることが明らかになったのである。
特に推論能力の低下は、女性では45歳〜49歳と50歳〜54歳の年齢層でより顕著になり、男性では60歳から64歳と65歳〜70歳でより顕著だった。
女性の推論能力の低下が顕著だった時期は更年期と一致することから、女性ホルモンの分泌低下が影響を与えたと考えられる。
今回の研究で認知機能の低下が男女ともに45〜49歳で始まることが初めて明らかにされた。
シンマヌー博士は、「心血管系に良い生活習慣を目指すことは認知機能維持にも重要だ」と語り、心疾患の危険因子である肥満、高血圧、高コレステロール血症などの危険因子を中年期から少しでも減らすことが後年の認知症予防にも繋がると強調する。
認知機能検査ばかりでなく、「歩く速度」や「握力」といった誰でも簡単に測定できる検査で、認知症の発症リスクを知ることが可能なことも最近明らかとなった。
ボストン医療センターのエリカ・カマルゴ博士らの研究チームはフラミンガム・ハート・スタディ(FHS)に参加した平均年齢62歳の2400名の男女に対して「歩く速度」、「握力」、「認知機能」を測定し、その後11年間認知症の発症に関して追跡調査を行った。
結果は2012年に開催された第64回米国神経学会の年次総会で発表された。
調査期間中に34名が認知症を発症し70名が脳卒中を発症した。
解析の結果、歩く速度が同年代の男女より1.5倍遅い人は認知症を発症しやすく、握力がより高い人は42%も脳卒中や一過性の脳虚血発作を発症するリスクが低いことが明らかとなった
中年期から生活習慣を見直し、「速く」歩くことが心臓病や将来の認知症の予防には有効なようだ。
順天堂大学教授 白澤卓二 2012.6.26
※しらさわたくじさん紹介/1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学研究。
アンチエイジングの第一人者として、著書やテレビ出演も多数。